学校や家事に追われる日々はあっという間に過ぎ、秋から冬へ、少しずつ季節が深まっていく。十二月に入り、クリスマスが五日後に迫った日、ようやく二人分のプレゼントが完成した。
 私の和風のティッシュケースは会心の出来。大樹のペン立ては、少々傾いていたり、布を貼ってパックの隙間を誤魔化したりした跡はあるけれど、本人は満足しているようだ。クリスマスと正月の入り混じった商店街で、包装紙とクリスマスカードを仕入れてきて、私たちは最後の仕上げをした。
 大樹は包装こそ私より時間がかかったものの、カードは早々と書き終えて、外へ遊びに行ってしまった。私も祖母のカードは、さほど悩まずに書き上げた。
 問題は父だ。一体何を書こう……。ダイニングのテーブルに座って、プレゼントを目の前に並べ、半分だけ埋まった父宛のカードを、ああでもないこうでもないと眺めながら、私は呆れるほど長い時間考え込んでいた。
『お父さんへ めりーくりすます!! いつもありがとう、またあそんでね。 大き』
 カードの上半分を陣取る大樹の字は無邪気で――父を慕っている感じがすごくして、なぜだかとても腹が立った。大樹に少し、父にはたくさん。おばあちゃんをあざみ荘にほったらかして、私たちを家にほったらかして、それでこんなになつかれて良いはずがないのだ。
 それでも、私もメッセージを書かないわけにはいかない。悩んだ末に、こんなありきたりなフレーズが浮かぶ。
『いつも私たちのために働いてくれてありがとう 青葉』
 ……心にもないことを書き付ける手はどうしても震えて、ひどくぎこちない字になった。

 十二月二十三日、天皇誕生日。管理人さんの奥さんの車に乗せてもらって、私と大樹は、祖母の暮らすあざみ荘にやってきた。明日も明後日も平日だから、今日しかお願いできなかったのだ。父は何がそんなに忙しいのか、祝日の今日も仕事へ行っている。
 祖母は、六年前に交通事故に遭って入院し、それをきっかけにすっかり老け込んでしまった。足を悪くしてしまい、普通に暮らすのが大変になって、結局老人ホームに入ることになった。転勤族で働き蜂の父だから、祖母の世話まで手が回らなかったという――悔しいけれど、当時は私もまだ小さかった。
 最近は耳も遠くなってきて、私たちが何か話しかけても、ニコニコと頷くだけのことが多い。でも、優しい祖母の顔は昔と同じだ。
「おばあちゃん、これ、私たちからクリスマスプレゼントだよ。明後日になったら開けてね」
 耳元に口を寄せ、ゆっくりハッキリ言う。ちゃんと伝わったようで、祖母は嬉しそうに目を細め、私たちの手をぎゅっと握ってくれた。とても温かい気持ちになった。

 明けて十二月二十四日は、終業式でクリスマス・イブだ。学校から帰ってお昼を食べた後、早めに買い物に行こうと家を出たら、管理人さんの奥さんとばったり出くわし、一緒に商店街へ出かけることになった。
 商店街はクリスマスソングが流れ、電飾の光が瞬き、買い物客の喧騒にあふれていた。二人して野菜の品定めをしたり、牛肉を値切ったり、奥さんが『プレゼント』だと鶏の唐揚げを買ってくれたり、わいわい楽しくお店を回って。夕飯は大樹と一緒に料理し、ビーフシチューにピラフ風のごはん、唐揚げにサラダと、ちょっと豪華な感じになった。
 父が帰ってきたのは九時半過ぎ。その頃には私たちは、ごはんもお風呂もとっくに済ませて、ダイニングでテレビを見ていた。
「ごめんな、遅くなって。ケーキ買って来たけど食べるか?」
 いつものように、妙に自信がなさそうな声。洒落を言うつもりはないけど、もう少し景気のいい声は出せないんだろうか。
「食べる! 皿持ってくる!」
 父が持っている箱を見て、大樹が顔を輝かせた。しかし私は、
「お父さんのごはん、流しのところにあるから。あっためて食べて、お茶碗洗っといてね」
 それだけ告げて子供部屋に引っこもうとすると、大樹が慌ててこちらに来る。
「姉ちゃん、ケーキ食べないの?」
「明日でいいよ。私宿題やるから」
 そう言うと、大樹は口をとがらせた。
「えー、せっかくクリスマスなんだから、もうすこし一緒にいようよー」
 これが本音らしい。
「別にクリスマスっぽい感じもしないじゃん。私は宿題をするの。五年生は忙しいんだから」
「青葉……」
「なに?」
 父が何か言いたそうに呼ぶので、首だけ振り返る。しかし、
「いや……なんでもない」
 結局言ってこなかったので、こちらの気分が一段悪くなっただけだった。
「じゃね、おやすみ」
 私は一人で子供部屋に戻った。でも、もちろんすぐには寝ない。
 今日の夜は長いのだ。

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