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 この町では三日おきに、中心にある広場で市が立つ。雨の巡りを一日遅れで追う日取りだ。
 食料に道具類、衣類、飾りや香草のたぐいなど、取りかわされる品は実に豊富である。店を出している者の顔ぶれや、商品の量は毎回異なるものの、それで不自由を感じることはない。私たち自警団も、彼らから食料や日用品を買い、暮らしている。商品を売り切れなかったこと自体が心残りとなり得るのが、商人という人種なのか――亡くなった商人などが、生前の思いとともに商品まで、ここへ持って来ているらしい。
 何がどう噛み合って市が上手く機能しているのか、そして何故、私たちが死者から買った物品で生活できるのか、本当の所は良く分からない。ともかく、これがこの町の姿だ。
 店を出している者は大抵、手持ちの品物を売り終えるとここから消えてゆく。しかし、中にはそうでない者も混じっているのだ。


 その日の朝、私は巡回がてら食料を仕入れに、市へ出向いていた。小さな天幕を張って衣類を並べている者や、荷車をそのまま店舗にしている果実商など、彼らの商売のやり方は多様だ。売り子の服装も多様――最初は、比較的近くから来る者ばかりだったが、今では私の知らない地域の者も多い。
 眺めながらゆっくり歩いていた私は、一つの店の前で立ち止まった。店といっても、地面に布を広げただけの簡素なもので、その上に商品が並べられている。木や金属で、植物や木の実をかたどった、髪飾り、指輪、外套留め…そんな品々が六点ばかり。
 もっとも、商品を見たかったわけではない。商品とはいささか不釣合いな、年の頃十二、三歳の少年が売り子をしていることに、軽い驚きと興味を覚えたのだ。
 彼は私に気付き、日焼けした顔に人懐っこい笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「おっちゃん、ひとつどう? 上手く出来てるだろ、こいつとかさ」
「ああ、綺麗だな」
「だろ? おっちゃんには似合わないかもしれないけどさ、奥さんにでもあげたら絶対喜ぶぜ」
 私は苦笑した。その奥さんを亡くしてから、どれだけの月日が経っただろう――と思わず考えかけ、すぐにやめる。考えても詮無いことだ。
「そうだな…娘にでもやろうか。その腕輪をもらえるかな?」
 あっさり折れてやるのも、悪いことではない。ここには買ってもらうことで報われる人々が集まっている。それに私も、生活の糧と心の糧が手に入る。
「お、いい父ちゃんじゃん。まいど~」
 木製の輪に蔓草の図柄が彫ってあり、その上に木で出来た小さな実が、数個散らしてあるという品だ。少年の告げた値段は、細工物の相場を知らない私にも分かるほどの、破格の安さだった。
 無論、私の娘はとうに死んでいる。妻も、妻の母も、乳離れさえしていなかった息子も――家族の中で、あの病から逃れられたのは、私だけだ。しかし、娘が今も生きていたら、きっとこの腕輪が似合う女性に育っていただろうと、しばし思い耽った。

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