およそ怪談や七不思議なんてものは、的外れな場所ばかりを騒ぎ立てていることが多い――他の学校では違うのかもしれないが。何しろ、幽霊の居場所を言い当てている七不思議は、甘く見ても図工室と第二音楽室の二つだけ。背景も言い当てている不思議となると皆無だからな。――いや、『幽霊先生』も居場所を当てられていることになるのか?
 まあ、それだから、余計な場所へ入るなという千景の忠告は、結果的に的を射ている。彼女は、何か問題でも起こすと来年から肝試しができなくなる、と危惧しているだけだろうけれど。

 さて、次の目的地・放送室は、二階の職員室の隣にある。チャイムのスイッチがここにあることから、『死者のためのチャイム』のチェックポイントに選ばれたわけだ。
 夜中に鳴るチャイムは死者のためのもの。聞いてしまったらこの世に戻って来られなくなる。という不思議である。
 もっとも、放送室には鍵が掛かっているため、中には入れない。扉の窓から中だけ覗いて、扉に貼ってある封筒から紙を取ればおしまいである。
「よっしゃ、あといっこー!」
 さすがに暗さが心許なくなってきたらしく、伸平がガッツポーズをして気合を入れる。慶太郎も同調してこぶしを握っていた。ついでに職員室の中からも、頑張れ、と言いたげにグーを握る人影が二人を見ていたが、二人は気付かなかったようである。

 最後のチェックポイントは、一階児童玄関だ。ここでは夜になると、下足箱が一ブロック増えるという。チャイムと同じく、これも死者のためである。
 もっとも玄関まで来れば、外で待っている校外班メンバーの姿も見えてしまう。チェックポイントとしてはおまけのようなものだな。
「千景さーん!」
 一番手の彼らを出迎えてくれるのは、校外班長と担当教諭だけだ。そこで班長の名が先に出るあたり、彼女の人望が窺える。
 しかし、慶太郎の安堵の呼びかけに対して、班長は厳しい一言。
「最後の紙探してから出てきなー。伸平見捨てちゃダメだよー」
 それでも頼れる人が近くにいるという安心からか、慶太郎の顔は明るくなっている。それは伸平も同じのようで、
「ケー太、ふうとうあったぞっ」
 肝試しの間で一番嬉しそうな声をしていた。

      ◆

 千景の配慮で児童玄関には、肝試しに行った全員の靴が、体育館から移動してきてあった。
「おかえりー。どうよ、怖かった?」
 ニヤニヤと問う千景に、慶太郎が怖かったですと泣き付き、伸平は憤然とする。
「図工室に手ぇ置いたの千景さんだろ!?」
「手? そんなのあったっけ」
 首をかしげる千景に、伸平は更に畳みかける。
「あと男トイレ入っただろ! フツーにふうとうはってあったぞ、おとこおんな~」
「残念、あそこは狩田に貼ってもらったもーんだ」
「え、じゃあ狩田くんは、チェックポイント知ってたんですか!?」
「ずりーっ」
「あいつが知ってるのはドールさんだけだよ。コース作りは班長の特権」
 胸を張る千景に、伸平がずるいコールを連発する。その光景を、少し離れた所で担当教諭が、いくつかの教室の窓からは、もうこの世にいない子供たちが、楽しげに目を細めて見守っていた。
 ……ああ、また図工室で悲鳴が上がってるな。仕方ないな、あいつは。また叱って来るとするか。

おしまい

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